臨床検査学科の高橋一人講師、宇月美和教授、北爪しのぶ教授らの研究論文が「Journal of Neurochemistry」誌に掲載されました。(令和5年4月2日オンライン)
 本研究は本学脳神経外科学講座、本学病理病態診断学講座、理化学研究所、東京大学医科学研究所、お茶の水女子大学、コペンハーゲン大学、新潟大学脳研究所および新潟大学大学院医歯学総合研究科との共同研究です。

Brain-specific glycosylation of protein tyrosine phosphatase receptor type Z (PTPRZ) marks a demyelination-associated
astrocyte subtype
( プロテインチロシンホスファターゼ受容体Z(PTPRZ)の脳特異的な糖鎖修飾は、脱髄関連アストロサイトの指標になる )

【研究概要】
 アストロサイトは脳内で最も多く存在するグリア細胞で、脳内の恒常性を維持するために多様な役割を果たします。最近のトランスクリプトーム解析の結果、アストロサイトには多様な種類(サブタイプ)があり、発生や疾患形成の過程でそれぞれが異なる役割を持つことが明らかになってきましたが、これらのサブタイプを識別できるバイオマーカーはありませんでした。
 本研究チームは、中枢神経系のグリア細胞に高発現する膜タンパク質、PTPRZ(protein tyrosine phosphatase receptor type Z)に着目しました。そして、脳特異的な糖鎖修飾を受けたPTPRZが、代表的な脱髄疾患である多発性硬化症患者や脱髄モデルマウスの脳に出現する活性化アストロサイトに特異的に見出されることを発見しました。
 さらに本研究チームは、この糖鎖の本体が脳に特異的なHNK-1抗原が結合するO-結合型マンノース糖鎖(HNK-1-O-Man)であること、このHNK-1-O-Man+ PTPRZを特異的に認識する抗体を使って、活性化アストロサイトを識別できることを見出しました。HNK-1-O-Man+ PTPRZは脳障害モデルマウスで誘導される活性化アストロサイトには見出されないことから、脱髄病態と相関していることも分かってきました。
 以前に本研究チームは、分岐型のHNK-1-O-Man 糖鎖が脱髄を進行させる役割があることも明らかにしています。このことから、PTPRZの特有な糖鎖修飾は、脱髄疾患のバイオマーカーとしての活用に加え、脱髄疾患の治療標的としての可能性も期待されます。

https://doi.org/10.1111/jnc.15820