診療放射線科学科の大葉隆講師が執筆に携わった研究論文が令和4年9月14日付で「PLOS ONE」誌に掲載されました。

Objective stress values during radiation emergency medicine for future human resources: Findings from a survey of nurses
(将来の人材育成を見据えた緊急被ばく医療時における客観的ストレス評価:看護師の調査から見えてきたこと)

【研究概要】
 本報告は、緊急被ばく医療における医療従事者のストレスを客観的に測定することで、人材育成への指導強化ポイントを見極める研究でした。今回、緊急被ばく医療の訓練に参加した39名の看護師へアンケート調査を実施し、訓練中はウエラブル端末を装着してもらいました。本研究では心拍数の変動からストレス値を導き出し、緊急被ばく医療訓練におけるストレスの一つの指標となりました。アンケートの結果より35名(89.7%)の看護師は、緊急被ばく医療に関連する原子力災害についてほとんどまたはまったく知らないと回答しました。また、33名(84.6%)の看護師は、緊急被ばく医療に対して中等度以上の不安を持っていると答えました。心拍変動から導き出されたストレス指標からは、模擬患者の傷口に付着している放射性物質を取り除く処置(除染)時に、看護師のストレスが高くなることがわかりました。一方で、訓練終盤にあたる防護服の脱衣時には、看護師のストレスは除染時に比べ十分に軽減することがわかりました。ここから、緊急被ばく医療訓練時に医療従事者のストレスが高まる状況に関する事前指導や知識の提供が必要であることが示されました。また、極端なストレスの軽減はヒューマンエラーを誘発する可能性があるため、適度な緊張が与えられるストレス環境を維持するような訓練項目を構築する必要性が考えられました。
 通常、訓練主催側における指導ポイントはアンケートなどの主観的な指標でしか評価できていませんでしたが、この研究では、ウエラブル端末を装着することで、客観的な指標を用い訓練の指導ポイントを我々は具体的に把握できました。ここから、我々は緊急被ばく医療における有能な人材を短期間で育成するためのヒントをつかむことができました。また、認知バイアスの一つであるダニングクルーガー効果(自己の能力を客観的評価よりも過大評価している現象)が本研究では、アンケート結果とストレス応答より確認できました。このような効果は学習の妨げになるため、訓練などの指導ポイントにおいて、指導者がダニングクルーガー効果を訓練参加者へ認識させる必要があることが本研究より示唆されました。

DOI:https://doi.org/10.1371/journal.pone.0274482