教員からのメッセージ
素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理 天文学
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『はて?』を見つけよう!
2025/01/22ふしぎだと思うこと
これが科学の芽です
よく観察してたしかめ
そして考えること
これが科学の茎です
そうして最後になぞがとける
これが科学のはなです
朝永振一郎
(京都市青少年科学センター所蔵の色紙)
これは日本で2番目にノーベル賞を受賞した朝永振一郎博士のメッセージです(『量子力学と私』朝永振一郎著 江沢洋編、岩波文庫 緑152-1、 2006年、岩波書店)。このメッセージは、科学だけでなく全ての学問、いや全ての情報に接するときの姿勢を示しているのではないかと、筆者は考えています。
新たな情報に接するとき、「はて?」や「ん?」と疑問に思うことが必ずあるはずです。それを、「本に書かれている」・「偉い先生が云っている」・「テレビで云っている」・「ネットで云っている」などという理由で鵜呑みにせず、まずは自分なりにその「はて?」を整理し、「根拠がはっきりしていることは何か」、「『はて?』と感じたところはどこか」を明確にすることが新たな情報に接する第一歩です。「はて?」と思うことは面倒だと考えることもよくありますが、実は「はて?」を感じたときこそ、「新たなそして確かな情報を自分のものにするチャンス」であると考えています。真の情報以上にフェイク情報が世界を駆け巡っている昨今、正しい情報は何かを見極めるスキルこそが、これからの時代を生き抜いていく皆さんに必須なスキルではないかと思います。
まずは「『はて?』を探せ」そして「よく整理し・考えよ」、そうすれば、「新たな知識があなたの中で花開く」と朝永博士は語っているのではないかと思います。 -
講義の受講しやすい状態
2023/10/25自然界に存在する素粒子は「ボゾン(ボーズ粒子)」と「フェルミオン(フェルミ粒子)」と呼ばれる2種類の粒子に大別できます。ボゾンの代表例は光子です。一方、フェルミオンの例としては、電子や陽子・中性子などがあります。ボゾンはいくつでも同じ場所(「状態」という方が正確ですが)に入り込めますが、フェルミオンには「同じ場所に入り込めるのは1つだけ」という制約があります。ここが両者の決定的な違いです。この制約は「パウリの排他原理」と呼ばれています。この制約のため、電子を多く持つ原子(多電子原子)では、原子核の周りにある電子は全てがエネルギーの低い同じ場所に収まることができません。エネルギーの低い場所から1つ1つ順に空席が埋まっていきます。
私たち生物も原子(陽子・中性子・電子)から構成されているので、個体全体ではフェルミオン的な性質を持ちます。なので、1つの椅子に2人は座ることができません。もし、私たちがボゾンならきっと「満員」という概念は存在しないのでしょう。
さて、先日の講義の開始前のこと、講義室で準備をしながら学生の着席する様子を眺めていました。はじめは2・3人のグループが比較的ランダムにいくつかあったのですが、学生が次第に増えてくると、(教卓から遠い)出入り口に近い席から埋まっていくようでした。この席の埋まり方は、上述の多電子原子と同じだなぁ、と苦笑しました。さしずめ、学生が原子核の周りの電子で、出入り口が原子核、出入り口に近いほどエネルギーが低く、(残念ながら)私に近いほどエネルギーは高くなる、といったところでしょうか。学生は無意識にエネルギーの低い状態を選び、1つ1つ座席を埋めていったのです。エネルギーの低い状態の方が講義も受講しやすいのでしょう。