教員からのメッセージ
血液検査学、血液内科学、白血病細胞学
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「毒」と抗がん剤
2023/02/15国立科学博物館で開催されている特別展「毒」に行ってきました。動物、植物から人工毒まで自然界に存在するあらゆる毒に関する展示会です。展示総毒数は250点とのことで、怪しくおどろおどろした毒の世界を堪能してきました。
毒といえば抗がん剤の多くも、もともとは毒から作られたものです。例えば血液のがんである悪性リンパ腫は主に3種類の抗がん剤を使用して治療しますが、そのうちの2つは他の生物が作る毒から作られたものです。ひとつはビンクリスチンという抗がん剤ですが、これは有毒のツルニチニチソウという植物から抽出されたアルカロイドです。もうひとつのドキソルビシンは放線菌が産生する他の菌を殺す成分から得られた抗生物質です。どちらも効果の高い薬剤ですが、毒性も非常に強く、ビンクリスチンには神経毒性、ドキソルビシンには心臓毒性があります。ビンクリスチンを使用された患者さんの中にはかなり長い間しびれを訴える方がおり、ひどい時には箸が持てなくなることもあります。ドキソルビシンでは使用量が一定量を超えるとかなりの頻度で心臓毒性が出ます。こうした毒性はがん細胞だけでなく正常の細胞にも抗がん剤が作用してしまうために起きるからで、これを回避するために、がん細胞だけに効果を示す抗体薬や分子標的治療薬が最近盛んに開発されています。こうした薬剤は慢性に経過する白血病やリンパ腫には劇的な効果をもたらしますが、急性白血病や急速に進行する悪性リンパ腫に対しての効果は限定的で、今でも毒由来の抗がん剤の使用なしには治癒は望めません。抗がん剤の効果と毒性は紙一重で、毒性をできるだけ出さないように毒を使いこなす技が求められますが、それを支えているのが毒性を正確にモニタリングする臨床検査です。 -
血液診療と臨床検査
2021/11/24貧血や、白血病などの血液腫瘍を診療したり、難治性の血液疾患患者に骨髄移植などの移植治療を行うのが血液内科の主な仕事です。血液内科が扱う疾患は、他の診療科が扱う疾患と比べてやや異なる点があります。それは血液疾患のほとんどは肉眼で見て診断することができないという点です。例えば胃腸にできるポリープや潰瘍はカメラを介してではありますが、病変を肉眼で確認できますね。しかし血液の中にある血液腫瘍を肉眼で見ることはできませんので、診断は医師や臨床検査技師が顕微鏡で腫瘍細胞を見つけるところから始まります。腫瘍以外でも、貧血なども血液検査をしないと診断をすることは不可能です。というわけで血液診療は臨床検査がリアルタイムでできないところでは成り立たず、医師は検査室から出てくる検査データを信用して診療にあたりますし、臨床検査技師は正確なデータを医師に提供する必要があります。血液診療を受ける患者さんのほとんどは診察前に血液検査を受けており、医師はそのデータを確認して診療にあたります。医師の触診や聴診といった普遍的な診察技術より検査データの方がより患者さんの状態を正確に把握できるからです。ただ度が過ぎると、患者さんの病気と戦っていることを忘れ、電子カルテ上の検査データと格闘してしまい、患者さんの顔を一度も見ないまま診察が終了していた、などという笑えない話にもなりかねません。その辺りはAIがうまくサポートしてくれる時代が来るかもしれませんね。
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エイズと新型コロナウイルス
2020/12/23これを書いている12月1日は世界エイズデーです。日本で初めてHIV感染者の報告があったのは1985年でしたが、それから2年後、神戸市の日本人女性のHIV感染者が実名報道されるなど、メディアは徐々にエスカレートし、日本中がエイズパニックに陥りました。当時はちょっとしたことで感染すると勘違いされ、メディアも大いに煽ったため日本中が差別と偏見で満ち溢れることになりました。何だか今の新型コロナの報道のようでした。私が医師になった頃の話です。それはエイズが当時不治の病であったからで、実際に世界中で多くの患者さんが亡くなっていました。間もなくAZTという薬が使用できるようになり、私も数名の患者さんに使用しましたが、残念ながら効果は一時的でした。しかし、それから数年して新たな作用機序を有する薬が開発され、複数の薬を組み合わせて使用することで効果が著しく向上しました。今では1日1錠薬を飲むだけで体内からウイルスがいなくなり、普通の生活ができる時代になりました。ここ数年、私の患者さんにもこの感染症で命を落とした方は一人もおりません。HIVは新型コロナウイルスと同じRNAウイルスです。このHIV治療の研究成果が、新型コロナウイルスのワクチンや治療薬開発に応用されており、既存の薬以外にもウイルスを劇的に死滅させることができる化合物もすでに見つかっています。本学に入学した学生さんがコロナを心配することなく学生生活を送れるようになることを願うばかりです。もうしばらくは我慢の日々ですね。
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サラサラなのか固まるのか!
2020/09/23血液検査学で学ぶ分野に止血凝固検査があります。けがなどで出血しても血小板や凝固因子が働き血は固まって(凝固)自然に止まります(止血)。この血の止まりやすさや固まりやすさを検査するのが止血凝固検査です。止血凝固の働きが動脈硬化などが原因となって暴走すると、血管の中に血の塊(血栓)ができて心筋梗塞や脳梗塞などを起こすことがあります。これを予防するのが抗血小板薬や抗凝固薬(いわゆる血液サラサラ薬)ですが、投与量が多いと逆に出血の副作用が出てしまいます。そこで行われるのが止血凝固検査です。副作用が出なくて、血栓を作らせない効果が最大となる最適量をこの検査でモニターしていくのです。抗凝固薬に関しては確立したモニター法(血液検査学で実習します)がありますが、抗血小板薬に関しては良いモニター法がなく新たな検査法の開発が望まれていました。最近、臨床検査学科の三浦助教、北爪教授などが抗血小板薬の効果をモニター可能となる分子を発見し、実用化に向けてさらに研究を進めています。皆さんも検査技術の革新につながる研究を一緒にしませんか。(写真は血液凝固カスケードの一部です)
https://fmu-hs.jp/news.html?id=39 -
顔に隠された真実をあぶり出せ!
2020/08/05臨床検査学科で血液検査学を担当します。血液検査学では血液中の細胞の計量法や、血液や骨髄中の細胞の同定法などを学びます。白血病などの血液腫瘍は、がん化した血液細胞が無秩序に増加する病気です。腫瘍の種類によって細胞の顔は可愛らしいものから獰猛に見えるものまでさまざまですが、可愛らしい顔をしているからといって質(たち)が良いとは限りませんし、顔つきは悪くてもあっさり薬にやられて治りやすいタイプもあります。顕微鏡で顔を判別するだけでなく、PCR法を始めとした遺伝子検査などを駆使して顔に隠された本当の質をあぶり出すのも臨床検査技師の仕事の一つです。真の姿をあぶり出す技術革新に一緒に取り組んでみませんか。