教員からのメッセージ
病態検査学、解剖学、水圏生命科学
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「陰性」の重み
2024/06/26臨床検査学科に入学すると、病気のシグナルとなる身体の変化を見つけ出す検査手法を学び、正確・迅速な臨床検査を行える人材を目指します。一方、実際に臨床検査技師となって臨床現場に出ると、異常を見つけ出すことだけではなく、「陰性」と報告する重みに気付きます。検査を受けて異常が見つからなかった患者さんは、健常人と判断されたり、経過観察の間隔が長くなったりします。本当は病気の徴候があったのに、見逃した、気がつかなかったは許されません。
医療では最新技術に目を奪われがちですが、患者さんに安心してもらえる質の高い医療を提供するためには、「陰性」という結果の信頼性を高める地道な努力がとても大切です。同時に、これは最も難しいことでもあります。 -
脱灰
2023/04/26病理検査では様々な部位の標本を作りますが、時として骨のような固い組織を取り扱うことがあります。そういった固い組織は、カルシウム成分を除去し、柔らかくしてから標本を作る必要があります。
そのカルシウムを取り除く処理のことを「脱灰(だっかい)」と呼びます。
先日、組織の脱灰法について調べものをしていたら、「Erosive Effect of Acidic Beverages and Dietary Preservatives on Extracted Human Teeth—An In Vitro Analysis」というタイトルの論文が目に留まりました。その論文には酸性飲料が歯を「脱灰」すると書いてあり、特にコーラやレモンジュースはその作用が強いことが示されていました。私は子供の頃からコーラが大好きで、長年愛飲しています。まさか自分の好きな飲み物が、「脱灰」という言葉を通じて病理検査と結ばれるとは・・。
なんとも複雑な心境になりました。 -
体の中を移動する臓器
2022/01/26首の前側、喉仏の下あたりに甲状腺という臓器があります。蝶が羽を広げたような形をしていて、気管を包み込むようについています。薄く柔らかい臓器のため、注意深く首を触ってみても、かろうじて触れるかどうかという存在です。
この甲状腺、実ははじめからこの位置にあったわけではなく、はじめは舌の根元で元となる構造が作られます。その後、体が形づくられるとともに、舌の根元が首の下方に沈み込んで、所定の位置に落ち着きます。この沈み込みが途中で止まってしまうと、甲状腺は本来の位置に存在しなくなります。この状態を医学的には異所性甲状腺と呼び、位置がずれただけだと機能的には問題がないことが多いです。
このように本来あるはずのところにない、無いはずのところにある、初めてそういった状況に遭遇するととても驚きます。しかし、体が形成される過程を知ることで、なぜこのようなこと起きるのか理解することができます。体の中には臓器が移動した道筋や一度作られてあとに消えてしまった痕跡が色々と残っているので、調べてみるとおもしろいです。 -
視点を変えることで見えてくる気付き
2021/04/09昨年、健康診断でピロリ菌に感染していることが分かり、除菌治療を受けました。ピロリ菌は胃・十二指腸潰瘍や胃がんのリスク要因として知られ、積極的なピロリ除菌は胃がん予防に重要な役割を果たすことが分かっています。
このピロリ菌、今から40年ほど前にオーストラリアのウォーレンとマーシャルという医師が発見し、のちに2人は胃炎や胃潰瘍における役割を解明したとしてノーベル賞を受賞しています。実はウォーレンらの報告よりも前に、複数の研究者が胃の中の細菌に気付いていました。しかし、当時は強い酸性の胃の中で生きられる細菌はいないという考えが主流だったため、その意義を深く追求するには至らなかったようです。このように同じものを見ていたにも関わらず、捉え方によって得られる結果が変わってしまうことがあります。本学に入学する学生の皆さんには、物事を1つの視点ではなく、先入観のない多角的な視点で考える力をつけてほしいと思っています。
(写真:顕微鏡を使った実習を行う検鏡室) -
遺伝子に刻まれた体質
2020/12/02ヒトゲノムDNAは30億もの塩基対がありますが、ある特定の1ヶ所の塩基が異なるだけで、体質が変化してしまうことがあります。お酒の強さもその1つで、アルコール分解に関連する遺伝子の塩基配列を調べると、①お酒が飲める人、②お酒は飲めるがすぐ顔に出る人、③お酒が全く飲めない人に分けることができます(図は実際に遺伝子のタイプを調べた解析結果で、カーブの形で分類します)。
日本人は①のタイプが6割程度といわれていますが、以前、私を含め、ボランティア十数名の臨床検査技師のタイプを調べたところ、9割以上が①でした。臨床検査技師はお酒に強い人が多いのでしょうか・・。 -
病気の原因を探索・可視化する
2020/09/09臨床検査学科で病理検査学を担当しています。出身は北海道札幌市です。社会人となってからは函館、弘前と徐々に南下し、昨年より福島市民となりました。臨床検査技師として20数年、病理検査や血液検査などに携わり、教員としては4年目を迎えます。
病理検査の醍醐味は、腫瘍、炎症や感染症などの病態を、顕微鏡を通して視覚的に捉えられることです。近年は形態だけではなく、遺伝子やタンパク質の異常を解析し、より精度の高い診断や治療に貢献しています。
本学では、がん早期発見のスペシャリスト「細胞検査士」とのダブルライセンスを目指すカリキュラムも準備中です。真新しいキャンパスで皆さんとお会いできることを楽しみにしています。