教員からのメッセージ
核医学、放射線技術学
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知の体力
2022/10/19私は、仕事の合間を縫って読書や映画鑑賞を楽しんでいます。これらの趣味は他の人の人生を追体験することができます。自分の人生で経験できることには限界がありますが、読書・映画鑑賞を通じて自分が知らないさまざまな生き方を学ぶことができます。他人が経験したことを知ることが自分自身の生き方を客観的に見直すきっかけになって、自分の人生経験を広げることにつながると考えています。
今回、京都大学名誉教授である永田和宏先生が執筆された「知の体力」(2018年発行)という私の好きな本を紹介したいと思います。この本は、日々大学という場で教育するうえでの考え方や生き方のヒントを私に与えてくれた、私にとってのバイブルです。本書の一部を要約すると、私たちのこれからの時間、将来の人生に起こることは、すべて想定外のことです。生きるということは、想定外の事態を、なんとか自分だけの力で乗り越えていかなければなりません。タイトルにもなっている「知の体力」とは、現実の実社会で応用可能な、情報活用の基礎体力であると著者は表現しています。すなわち、これから何が起こるかわからない想定外の問題について自分なりに対処するためには、知識の習得以上に、どう考えればその場を乗り越えられるかという考え方である「知の体力」の訓練が必要であると言っています。さらに、答えがあるとの前提で具体的に何かを解決するためにという目的のはっきりしたものは「学習」であり、具体的な目標を設定しない、もっとはるかに遠い未来に漠然と何かの役に立つ勉強が「学問」であると説いています。私自身も、大学教育の本来の姿は、単に知識や技術を教授するだけでなく、正解の無い問題や想定外の内容にどう取り組むかという自分で考えることができる基礎体力を「学問」を通じて鍛える場所だとつねづね考えており、本書の内容には共感することや、そうありたいと思うところが随所にありました。私は学生との向き合い方や教育方法に悩んだときに定期的に本書を読み返しています。これから大学生になる方のみならず、大学教員にも是非一読して欲しい本です。
私たちは自分の知っていることでしか世界を見ることができず、その経験や知識を応用することでしか、そこにあるものから何かを生み出すことができません。よって、若い人々には、大学生活でさまざまな経験を積んでもらい、学問を通じてたくさん学んでもらい、自分の可能性を自分で摘み取ることなく、一度しかない自分の人生を思いっきり自在に生きて欲しいと願っています。
写真は今の時期に毎年恒例で研究室メンバーで訪れる那須塩原市にある「紅の吊り橋」です。 -
努力と運と人生
2021/07/2110年ほど前、AKB48などのプロデューサとして知られる秋元康さんがSNSを通じてAKB48の「非」選抜メンバーに送った言葉が印象的でした。要約すると、「長い間、芸能界でスターを間近に見てきて、スターとして成功するために何が必要かというと、…運である。では、努力しても無駄なのかというと、それは違う。努力は必要で、言い方を変えれば、努力は成功するための最低条件である。みんな、必死に努力して、じっとチャンスの順番を待つしかない。」そして、最後に「いつか、必ず、チャンスの順番が来ると信じなさい。今の自分にできることを考えなさい。」の言葉で締めくくられ、当時20代であった私の心にも突き刺さりました。また、私自身も「いつチャンスが巡ってくるかわからないが、その時に勝負できるスタートラインにいられるように、毎日努力して自分をみがきなさい。」と偶然にも恩師から同じような言葉をかけられ、目の前の臨床業務や研究活動に邁進して、何となく自分の未来に期待していました。結果的に、運に恵まれ、大学教員になり診療放射線技師を育てるという一つの夢を叶えることができました。これらの言葉は受験生、大学生、若手社会人などあらゆる人に当てはまる大切な考え方ではないでしょうか。10代、20代の頃はまわりの人と比較して、自分の境遇をネガティブに捉えがちです。自分の境遇の悪さだけを嘆いても何も始まりません。努力を続けていると、さまざまな出会いや運が重なり、想像もできないような未来が訪れることがよくあります。
大学時代に友人たちとニューヨークを旅行し、マンハッタンにあるエンパイヤステートビルから眺めた夜景に感動しました。そして数年前に学会の合間に時間を見つけて、友人や大学の教え子たちと一緒に15年ぶりに同じ夜景を見に行きました(写真)。当時とは全く違った景色に見えました。その夜景を見ながら、15年の間に少しずつ積み上げてきたものを実感し、運に恵まれ、当時は想像もしなかった楽しい人生を送れていることに感謝しました。
皆さんのいまの頑張りが何かしらの形で報われるときが必ず訪れます。頑張ってください! -
核医学とは
2021/05/25私は放射線医学のなかでも“核医学”という分野を専門としています。核医学とは、放射線を発生する薬(放射性同位元素)を体内に投与することにより、PET装置やSPECT装置などの医療機器を用いて“生きたまま”生体内の機能や病態を可視化することができます。最近では高エネルギーを有するα線やβ線を発生する放射性同位元素を用いて“がん治療”を行えるようになってきました。実は私は、学生時代、核医学に興味が持てず、苦手な科目の一つでした。臨床業務で本気で取り組んだのがきっかけで、核医学の魅力に取り憑かれました。核医学には物理学、工学、薬学、および医学の広分野にわたる深い知識が求められ、それらの各分野の研究成果の複合的な積み重ねにより学問として進化しています。10年前には全く想像できなかった技術革新、ひいては臨床応用へとつながっています。核医学を通じて常に学び続けることの楽しさや喜びを味わうことができました。さらに国内外に多くの核医学の仲間ができ、結果的に人生が豊かになりました。今、自分が好きなことを次代を担う学生に教授しながら、一緒に勉強・研究できることが幸せです。福島県立医科大学では臨床・研究・教育すべてにおいて核医学を学ぶ素晴らしい環境が整っています。一緒に核医学を学び楽しみましょう!!
写真:PET/CT装置開発のパイオニアであり、尊敬する友人でもあるPaul E. Kinahan教授(University of Washington)を日本に招聘した際に、ヘルメットPET装置(量研/QSTによる開発)の前で。