教員からのメッセージ
放射線科学、放射線計測学、X線装置出力測定、患者・術者被曝線量測定
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感情というコンパス
2024/07/17皆さんは何かを決める際、論理的に判断をしていると思いますか?新しい服が欲しいな・・・と思ってお気に入りのお店に行き、商品を手に取って悩んでみる。いろいろ考えたけど、デザインもいいし、今度遊びに行く際にこの服は最適!よし、購入しよう!私は今日も論理的に良い判断ができたと思う!
意思決定に係るテーマは心理学で良く取り上げられ、多くの研究が実施されています。私たちは「論理的に判断をしている」と思いがちですが、実は多くの場合、錯覚をしていることが分かっています。最初に「好きか嫌いか」の感情のレッテルをはり、その後「論理的な理由」を探しているようなのです 1)。
意思決定論を考察する際に「ビュリダンのロバ」というたとえ話があります 1)。空腹のロバがT字路に立っており、左右どちらに進んでも、同じ距離に同じ量の干草が置かれていた場合に、ロバはどちらの道も進まずに餓死してしまうというものです(注:西洋ではロバは愚か者のたとえとして使用されています)。私たちの思考や行動は外部の何かによって決定されているという決定論の考え方を持てば、2つの条件が全く同じ場合にどちらも選ぶことができなくなってしまいます。それに反して私たちは、自由な意思や直感によって物事を決めることができます。その選んだ道が最適であったと信じたいが故に、論理的な理由を後から探すということのようなのです。
人は皆、自らの進路を選択せざるを得ない時期がやってきます。「良い進路が見つからない」という不安を持つ方も多いのではないでしょうか。しかし、私たちは感情という優れたコンパスを持っています。「これは良いかも」という直感があり、それを基に意思決定を行い、最後に論理性を評価する。最初に「好き」と思えることに巡り合ったのであれば、心が論理的な理由を探してきてくれるのです。そう思えば思い切って進路を選択する勇気が湧いてこないでしょうか。
1) 今井むつみ. 何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?
日経BP. 2024 -
興味のない授業
2023/05/24私達は興味のない授業や話を聞くと、❝難しくてわからない❞、❝つまらない❞と心が拒否しているような感覚に陥ります。しかしクラスにはそういう授業を楽しんでいる友人もいたりするので、蓼食う虫も好き好きだと感心したことはないでしょうか。
私達の脳は五感から得た情報を、大脳皮質神経細胞が認識し、好き嫌いをつかさどる側坐核、危機感をつかさどる扁桃核、言語や表情をつかさどる尾状核、意欲や自律神経をつかさどる視床下部等のドーパミン神経系を経由して、「好き」「嫌い」「面白い」「つまらない」などのレッテルを情報に付与します。レッテルをはられた情報は、情報を理解、判断する前頭前野に入り、思考が行われ、報酬関連領域を経て海馬に保存されることになります 1)。この情報処理過程から考えると講義が「難しい」から「つまらない」のではなく、【「つまらない」というレッテルをはったので思考に抑制がかかり、「難しい」と感じた】ということになります。
私達は楽しく笑いながら怒りを表現することは困難です。これを利用して、箸の真ん中あたりを横から噛む場合(笑顔)と、縦にした箸の端を唇で挟む場合(しかめっ面)で、漫画を読んでどちらが楽しかったか点数をつけて比較をした研究があります 2)。この結果は、同じ漫画であっても笑顔で読んだ方の点数が高くなったようです。ここから私達人間は、【楽しいから笑顔を作るわけではなく、笑顔を作るから楽しい】ということのようです。
ストレスの多い社会ではいつも笑顔でいることは難しいもの。日々多くの情報に触れる際に「それは面白い」と先に唱えてから考えるか、「興味ない」と心を閉ざすかで、その情報に対する思考力は異なってきます。同様に笑顔が感情を作るという、一見逆の考えを持つことでストレスへの対処もうまくいくかもしれません。
1) 林成之. 困難に打ち克つ「脳とこころ」の法則. 祥伝社. 2011
2) Wiswede, et al. PLoS One 2009 -
赤・緑・青
2022/04/27私たちが赤・緑・青と感じる光は、それぞれ波長650 nm、500 nm、450 nm程度の電磁波です。電磁波は電場と磁場が直交して進む波であり、マイクロ波やX線に色がないのと同様、可視光にも色はありません。人は可視光を識別するために、網膜内にある赤・緑・青の錐体細胞を利用しています。赤錐体は波長560 nm程度、緑錐体は530 nm程度、青錐体は430 nm程度を中心として、ある程度の波長幅に感度を有しています。私たちは、これらの細胞が同時に受け取った波長をもとに、色を識別することができます。
錐体細胞の機能には個人差があるため、色の見え方は人によって異なります。先天色覚異常は遺伝的要因によって発現し、男性の約5%、女性の約0.2%に存在していると言われています。数年前までは赤色レーザが一般的でしたが、大学の講義や学会等において、緑色レーザを使用する機会が増えてきました。赤色レーザは長波長の光であり、第1色盲(赤色盲)の方には非常に見えづらくなります。一方で緑色レーザは明るく良く見えますが、人によってはまぶしく感じるかもしれません。
外科医は手術においてレーザを使用します。このレーザから外科医の目を守りつつ、出血や組織を見分けるための眼鏡を開発していた研究者は、完成した眼鏡が色弱の患者さんたちの錐体細胞の機能を助けてくれることを発見します。光に色を与えてくれるこの眼鏡はEnChroma社によって販売され、半世紀以上の間、色を識別することに困難を感じていた方々に驚きをもって迎えられています*1, 2)。光に色はありません。しかし、光を色に変えるメカニズムは人々に幸せをもたらしてくれます。
私たちは今見ているものを共有できる現実として考えがちです。緑豊かな山々に沈む太陽が空を茜色に染める瞬間、それをきれいだと共感してもらえなければ残念に思うかもしれません。哲学で有名な逆転クオリアの思考実験にあるように、私が見ている赤色とあなたが見ている赤色は異なっている。それは当然のことなのです。さまざまな人に思いを馳せること。大学生の4年間で是非学んでほしいと思っています。
1) EnChroma: "Tough Guy" Sees Full Color for the First Time.
https://www.youtube.com/watch?v=xZ7AvvYsr54
2) Color blind awareness! 3 wives surprise their husbands with EnChroma glasses Stockholm Sweden.
https://www.youtube.com/watch?v=dVQKam5HWHU -
脳を3D printingしてみる
2022/02/16“テトリス”や“ぷよぷよ”といったゲームをしたことがありますか?これらのゲームでは、上部から落ちてくる形状や色の異なる粒の集まりを、うまく並べることで点数を競いますよね。CT装置やMRI装置といった大型医療機器でも、色の異なる(信号強度が異なる)粒を並べて、一つの画像として表示しています。“テトリス”や“ぷよぷよ”はXY座標ですが、医療画像ではZ座標を加えた3次元座標であり、日進月歩の医療のなかで、これらの粒の大きさは0.5 mm × 0.5 mm × 0.5 mm程度の立方体で構築できるようになりました。
脳のMRI画像を図の最上段に示します。臨床的に意義のある立方体の粒(ここでは脳)に彩色し、着目しない立方体の粒を透明にして、3次元版“テトリス”や“ぷよぷよ”のように積み重ねて、さまざまな方向から観察してみます。一つ一つの粒の大きさが立方体なので、2次元の情報は3次元の立体構造物(脳)のように見えるようになりますね。数十年の間に、医療画像は2次元画像から3次元画像へと大きな進化を遂げました。
立体構造物には表面が存在します。この表面を小さな三角形で結んでいくと、表面のみの情報を作り出すことができます。この情報をもとに3D printingすると、撮影した画像から臨床的意義のある立体構造物を1 mm以内の精度でプリントアウトすることができます。身体の中にあるものを外に取り出して、手に持てる時代になったわけです。あとはこの技術をどのように使うか。アイデアが世界を変えていくのです。 -
何が分からないか、わかってるかな?
2021/10/20進路指導の面談において、高校の先生に「とりあえず大学に行きたい」と伝える生徒がいます。何を隠そう20数年前の私です。今の高校の先生はどのように指導してくれるでしょうか。「どこの大学に行きたいですか?今の成績だと・・・」と話が進んでいくかもしれませんが、これだと生徒(私)は進路(問題)が見えていたとは思えません。ここでは、「○○を学びたいので、△△の大学に行きたい。『でも□□が分からないのです』」これに準ずる質問ができれば一気に解決に進みます。相談する前に「何が分からないか、わかっている」ことが問題を解く鍵になるのです。
「何が分からないか、わかる」ためには何が必要なのでしょうか。そのヒントはTrial and Error (試行錯誤)にあります*。当てずっぽうでも良いので、まずは自分で何かしらアプローチをしてみる。その結果、それがなぜうまくいかなかったのか、というとっかかりを見つける。先の「大学に行きたい」という進路の問題であれば、大学の資料を読み込んだり、先輩や両親の話を聴いたりすることで「何が分からないか」を見つけることができるはずです。
先日、医薬看護、情報学部の人気が上昇しているという報道がありました。医薬看護に興味のある生徒には、なぜ情報学部の人気が上昇しているのか分からないかもしれません。「なぜ情報学部が人気なのか?」という問いに対して自分で調べてみてはいかがでしょうか。どういう大学で何を学ぶことができ、卒業後はどのような仕事が可能なのかを調べることで、さらに「何が分からないか、わかる」でしょう。分からないことが何か分かれば、後は詳しい先生方に教えを請えばよいのです。
研究者の仲間と話をしていると「分からない(誰も分かっていない)ことが何か分かる」人が多いように思います。「巨人の肩の上にのる矮人」 という比喩表現が西洋では有名ですが、先人の積み重ねた発見の上に、新しい発見をすることが科学の進歩を意味するからだと思います。「何が分からないか、分かった」時点で明らかに人は成長しています。ここまでくれば先生に質問に行きましょう。きっと大きな発見があるはずです。
引用: * 大学の恩師に教わった、「なにがわからないか、わからない」ときの質問のしかた。https://blog.tinect.jp/?p=68951 -
高校生に英語学習は必要か?
2021/08/18世界には多言語国家がいくつもあります。アメリカは英語を公用語としていますが、移民国家であることからたくさんの言語が日常的に使われています。カナダの公用語は英語とフランス語ですね。国家ではありませんが、国際連合(国連)の公用語はアラビア語、英語、スペイン語、中国語、フランス語、ロシア語の6つです。多言語を理解することは一般的に困難なので、国連の参加者は写真のような通訳機を使うことができます。
ここ数年Artificial Intelligence: AIの発展が目覚ましいですね。このまま技術が向上すると、近未来ではAIを搭載した通訳機が日常的に使用されるようになるでしょう。そうなると、海外の方々とのコミュニケーションは容易になるので、英語の勉強から解放される!!と思っていませんか?
そもそも私たちはなぜ外国語を学ぶのでしょうか。ヒントとなるGeoffrey Willansの言葉があります。
You can never understand one language until you understand at least two.
母国語の理解には別言語が必要だ、という格言です。英語の学習は、母国語の思考の枠組みを外し、思考の相対化に役立ちます(”患者”は和英辞書で調べると”Patient”。”Patient”を英和辞書で調べると、”忍耐強い”という意味が掲載されています)。そして、この思考の相対化は教養を得るうえで基盤になってくるのです。大学で学ぶ新しい医療技術は基本的に英語で発表されたものです。日進月歩の医療において、大学卒業後に新しい情報を取得するには英語が圧倒的に有利でしょう。その際に翻訳機を介さずに英語で情報収集ができれば、思考の幅もさらに広がるはずです。私はAIが普及した近未来でも、英語の学習がなくなることはないだろうな、と想像しています。 -
幸福度
2021/06/162020年の国連の報告書「World Happiness Report 2020」には世界の幸福度ランキングが記されています。日本は40位。「人は苦労ばかりを数え、幸福を数えようとしないものだ」と表現したのは、ロシアの小説家・思想家のドストエフスキーです。順位を考えると、日本人は幸福を数えることが苦手なのかもしれません。
幸福を健康の幸福(セロトニン的幸福)、絆の幸福(オキシトシン的幸福)、成功・達成の幸福(ドーパミン的幸福)の3つに分ける考え方があります。これは、人は健康の幸福という土台の上に絆の幸福を求め、さらにその上に成功・達成の幸福を求めることができるという考え方です。健康が損なわれている状態では絆の幸福を増やしていくことは容易ではありませんし、孤独感に苛まれていては成功・達成の幸福を得ることは困難です。
私たち医療従事者は、幸福の中でも基盤となる健康の幸福を支える仕事をしています。私が在籍している診療放射線科学科では、身体の中の疾患を身体に傷をつけることなく画像化できる高度な医療技術を学ぶことができます。診療放射線科学を通して患者の幸福に貢献する。もし同じ思いがあれば、私たちと一緒に学びませんか? -
なぜ僕らは働くのか
2020/12/23なぜ僕らは働くのか。大人でもこの答えに窮する方も多いはず。生活をするため、欲しいものを買うためにお金を稼ぐ必要がある、という答えが一般的かもしれません。それは間違いではありません。しかし、それだと仕事が我慢になってしまうかもしれません。
どのような仕事であっても、働くというのは誰かの役に立つ、ということです。お金を使う、ということは、自分ではできないことを他の人にお願いすること、なのです。大学を卒業して22歳から働くとすると定年まで40年以上もあります。正解はないけれど、どんな仕事がいいだろう?
職業に貴賎なしと言われます。それと同時に、人生には貴賎がある、とも言われます。私たちは病に苦しむ人たちの役に立ちたい、という思いで仕事をしています。もし同じ思いがあれば、私たちと一緒に学びませんか? -
物事の多面性を見抜く力を
2020/09/23私たち診療放射線科学科では主として光を扱います。光速度は1秒間に30万kmと正確に測定できていますので、光の種類は、1秒間に何回振動するかで区分けされています。
アスリートが勝ち取った金メダルは金色に輝きますね。この金色というのは、可視光のうち、赤色から緑色の光が反射されて目に届くから金色に見えるのです.
一方で光の三原色は赤、緑、青です。金にあたった青色の光はどうなってしまうのでしょうか。実は、青色や紫色の光は透過します。金箔は前から光をあてると金色に輝きますが、後ろから光をあてると青色に輝くのです。
私たちが日常見ているものは、物事の一面性でしかありません。どのようなものであっても多面性を保持しているもの。それを見抜けるかどうかは、それを見る知恵を持っているかどうか。大学はその知恵を磨く場所になるはずです。 -
患者さんのために、見えない光を巧みに操ろう
2020/08/26皆さん初めまして。HPを開いてくれてありがとうございます。私は高校卒業まで京都府長岡京市で育ち、1999年に新潟大学を卒業して約20年間、病院と研究所で忙しい日々を過ごしてきました。現在は福島県立医科大学で診療放射線科学の教員をしています。
医療ではX線という光が多く使われています。レントゲンといえばピンとくるかもしれませんね。この光は目に見えないばかりか、五感に感じることもできません。特別な測定器を使わないと、その存在も疑わしく思えてきます。
目に見えない光の測定ができるようになると、それを巧みに操って、患者さんの病気の発見や治療が可能になってきます。下の写真は息子の左小指のX線写真です。指がドアに挟まって大きく腫れたのですが、骨は折れていなくて本当によかった。うまく撮影してくれた診療放射線技師の方に今でも感謝しています。
皆さん、医療に役立つ目に見えない光に興味はありませんか?もし興味があれば、福島県立医科大学で一緒に診療放射線科学を学びましょう。卒業後には診療放射線技師の国家試験受験資格を得ることができます。国家資格の診療放射線技師としてキャリアをスタートし、患者さんに貢献しませんか?