教員からのメッセージ
発達障害、特別支援教育、学校コンサルテーション
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高校教諭サポート研修会を開催しました。
2023/09/13発達障害の作業療法を専門領域とする私は、学校の先生と作業療法士の連携・協業を研究テーマとしています。我が国では出生率が低下し、子どもが減少しています。その一方で、特別支援教育を受けている児童・生徒が増加しているという事実をご存知でしょうか?限局性学習障害や注意欠如・多動症など今まで見逃されてきた神経発達症の子どもたちが、少しずつ認知されており、特別支援教育の対象となっているのです。
神経発達症の児童・生徒への合理的配慮や個別支援を実現するためには、学校の先生の専門性向上が必要です。そこで期待されているのが私たち作業療法士です。私はこれまでに、特別支援学校・学級、通級による指導、通常学級の児童・生徒に対して学校コンサルテーションを30年以上実施してきました。当時では稀であった作業療法士による学校コンサルテーションは、近年、地域に芽生えてきました。
今年度、福島県学術教育振興財団助成対象事業に採択され、本年8月17日に第1回「高校教諭サポート研修会」を開催しました。文部科学省は特別支援教育で多様な学びの場を広げつつあります。このことは通常の高等学校においても例外ではありません。「先生方の戸惑いが少しでも解消できれば…」「苦しむ高校生を作業療法士の知と技で助けたい・・・」そんな思いで研修会を開催しました。
特別講演は早稲田大学の梅永雄二先生を招聘し、発達障害のある生徒が進学・就職する際の困りごとと必要な支援についてご講演いただきました。梅永先生は移行(就労・進学)支援のエキスパートであり、この事業が採択され、一番初めにご講演を依頼した僕の尊敬する先生です。
参加された方々からは「より早期にライフスキルを獲得することの大切さを実感した。」「当事者と向き合ってきた梅永先生の想いがこめられた講演だった。」とのご感想をいただきました。
この事業は来年度も継続申請する予定です。時代のニーズに対応するために作業療法士は多職種から学び、日々研鑽していく必要があります。夏休み真っただ中でも自発的に参加してくれた本学科の学生達…皆さんの成長する姿を楽しみにしております。 -
内なる偏見
2022/07/06私が駆け出しのセラピストだった頃の苦い体験をお伝えします。当時の私は作業療法の代表的な治療理論である感覚統合療法の習得に向けて、月に一度、恩師の下を訪れてセラピーを教わる日々を過ごしていました。若さは時に過信を生みだします…そんな時にある男の子が教えてくれました。僕にとって大切なエピソードです。
Down症候群であるA君の母親と会話している中で、「A君が1人で近所のスーパーに行き、好きなお菓子を買ってくる」という話を聞き驚きました。なぜならA君は言葉を発することができず、可能なジェスチャーも「はい、いいえ」「バイバイ」などに限られていたからです。買い物には計算やコミュニケーション能力が必要だと考えていた私は、A君に買い物は出来ないと思い込んでいたのです。母親によると、A君は100円玉と好きなお菓子を握りしめ、店員に提示し、予算がオーバーしていたら何度もお菓子を選びなおし、買ってくるとのことでした。知能検査の結果からは不可能だと思われていた作業を、A君は持ち前の行動力と愛らしさによって見事にやり遂げていたのです。その事実に驚くとともに、私自身がA君の可能性を見出せなかったことに恥じました。
障害者自身だけでなく、家族や支援にあたる専門家が「できない」と思い込んでしまうことを「内なる偏見」(野中猛著『図説精神障害リハビリテーション』)と言います。作業療法士には、内なる偏見にとらわれることなく、子どもたちの可能性や希望を導き出すまなざしをもっていただきたいものです。
大学教員となった今、そんな気持ちで学生を見つめるようになりました。学生の力を信じ、可能性を引き出すそんな教育がしたいものです。 -
“できない”から“できた”作業療法士のスゴ腕!
2021/07/14学校コンサルテーションに行くと、発達障害が想定されるものの、診断されていない児童・生徒に遭遇します。
ある通常学級に通う3年生の男の子について書きます。その子は手先が不器用で、運動が苦手でした。僕(作業療法士)の見立てでは発達性協調運動症(発生率5~6%)が疑われました。その子は癇癪や暴力、規則違反的な行動を繰り返していました。学校コンサルテーションの開始時はほとんど教室におらず、図書館や保健室で加配の先生と過ごしていました。僕はこの状況を、不器用で努力しても成果が出ない、失敗経験の蓄積による二次障害と考えました。そして、教職員と保護者に検査結果をもとに、現状を説明し、具体的な提案を行いました。①努力を褒めること、②簡単な課題からはじめること、③指示を明確にし、プリントを活用すること、④使いやすい文房具を選ぶこと、⑤問題行動が生じた場合の対応と予防策…などです。1年後、暴力や規則違反行動は認められなくなり、ほとんどの時間、教室で過ごせるようになりました。
「誰も悪くない…」学校コンサルテーションで大切にしている言葉です。子供は悪くない、保護者も、教職員も、誰も悪くない…。でも、みんな困っています。作業療法士は見えない要因を探り、具体的な対応策を見出します。
障害者差別解消法によって合理的配慮がもとめられています。でも、体の不自由な“見える障害”に偏重してはいけないと考えます。“見えない障害に目をむける”“声なき声に耳を傾ける”そんな社会であってほしいと思っています。 -
作業療法の可能性
2021/05/11今まで療育施設や在宅、教育現場において、発達障害のある方々を治療・支援してきました。研究テーマは「作業療法士と教職員との連携・協業」「発達障害における身体および認知の特性」です。発達障害のある方々への支援は、クライエントのライフステージに応じて、切れ目なく提供される必要があります。しかし、就学支援や就労支援に携わっている作業療法士は限られています。僕には夢があります。それはスクール・作業療法士の制度化です!作業療法士の職域は拡大しており、可能性に満ち溢れています。皆さんに発達過程における作業療法の魅力を伝えていきたいと考えています。