教員からのメッセージ
疫学、公衆衛生学、老年医学、介護予防
-
GRIT(やり抜く力)は健康に影響するのか?
2023/10/11私の研究テーマは、介護予防など高齢者の健康に関するものです。健康を考えたときに、生活習慣はもちろんのこと、自分らしく過ごす時間(生きがい)が重要です。生きがいとなる活動を行うことは、ポジティブな心理状態を生み出し、健康的な行動や習慣にも影響し、健康寿命の延伸につながると考えています。
先日、友人からお勧めの本を借りました。「GRIT(やり抜く力)人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける」という本です。仕事で優秀な成果を上げている彼のお勧めの本です。この本を読んで、「GRIT」が仕事に役立つのはもちろんのこと、私たちの健康にも影響するのか?について、私自身や私の周りの人たちの様子から考察してみました。
まず、「GRIT」について説明します。GRITは、「やり抜く力」のことを指します。さまざまな分野で結果を出す人たちの特徴として、「情熱」と「粘り強さ」が挙げられ、彼らは「やり抜く力」を持っています。「情熱」はひとつのことに専念すること、「粘り強さ」は始めたことは最後までやり遂げることです。
「才能」だけでは目標を達成したり、良い成果を上げ続けることができません。良い成果を上げる(達成)には、習得した「スキル」を活用して「努力」する必要があり、その「スキル」は「才能」と「努力」によって速く上達します。つまり、「努力・やり抜く力」は二重に影響するのです(才能×努力=スキル、スキル×努力=達成)。
さて、「GRIT」は仕事や勉強で成果を出すために重要な要素であることは納得できましたが、私たちの健康にも影響するのでしょうか?私自身のことを考えてみると、「GRIT」を発揮して仕事に取り組んでいるときは、健康への配慮が欠けてしまいます。また、私の友人は優秀な成果を上げている「できる男」で、「GRIT」も高いはずです。しかし、ストレスフルな生活を送っており、サウナに通っていますが、健康に配慮した生活は送れていないようです。加えて、私たち共通の知人は「かなりできる男」です。「才能」は高く、「GRIT」も絶対に高いです。仕事では素晴らしい「達成」を積み重ねていますが、さらに高い「達成」を目指す人です。しかし、かなりストレスフルな生活を送っており、健康ではないようです。一方、別の友人は、「GRIT」は最近上昇傾向であるものの、生きがいとなる活動には常に全力です。そのため、睡眠時間を削ることもあり、生活習慣が乱れてしまうようです。
これらのことから、私が出した結論は以下の通りです。特定の時間や時期に「GRIT」を適度に発揮すること、加えて健康に配慮できる時間や生きがいとなる活動をする時間も適度に確保することが重要なのかもしれません。やはり、何事もバランスが大事ではないでしょうか。みなさんも「GRIT」と健康のバランスに気を付けてみて下さい。 -
人とのつながり あなたはどうですか?
2022/08/10孤独や孤立、皆さんはどのようなイメージをもっているでしょうか?
質問です。
「あなたはどの程度、孤独であると感じることがありますか?」
以下の中から1つ選んで回答してください。
「決してない」・「ほとんどない」・「たまにある」・「時々ある」・「しばしばある・常にある」
皆さんの回答はどの項目に該当しましたか?
そして、国内では何割くらいの人々が孤独を感じていると思いますか?
社会的に孤立状態にあることは不良な健康状態を引き起こすことが知られています。孤独・孤立の問題に対処するため、日本では英国に次いで世界で2番となる孤独・孤立対策担当大臣のポストが設置されました。その取り組みの一環として、国内の孤独・孤立の実態を把握するための調査が行われ、その結果が公表されましたので紹介します。
この調査では、対象を全国の16歳以上として、11,867名から回答が得られました。その結果、孤独感が「しばしばある・常にある」と回答した人の割合は4.5%、「時々ある」が14.5%、「たまにある」が17.4%でした(合計すると約36%)。この割合は、16~19歳・60歳以上では低く、20~50歳代では高いことが示されました。
10歳代・20歳代前半では学校を通じたつながりが得やすく、60歳以降では地域やさまざまな活動を通じたつながりが得やすいのかもしれません。一方、20~50歳代の働き盛りの世代は、就職によって環境が変化すること、職場での関係性が中心になってしまうこと、仕事が忙しくて交流の機会が十分に確保できないなどにより、孤独と感じる割合が高くなっているのかもしれません。加えて、近年は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、積極的に人と交流することが難しいことも影響しているのかもしれません。
作業療法の場面において、障がいがあってもその人らしく生活してもらうには、心や体の支援だけでなく、人とのつながりも大切な視点になります。ぜひ、人とのつながりについて目を向けてみてください。そして、皆さん自身のつながりについても考えてみてください。
私自身は、仕事で忙しい日々を過ごしていると家族や友人とのコミュニケーションがおろそかになっているな、と感じることがあります。人とのつながりをもっと大切にして、人間関係が良好になるよう配慮していかなければならないですね。 -
「その人らしい」生活とは?
2021/08/11作業療法では、心や体に障がいのある方を対象に「その人らしい」生活の獲得を目標とした支援を行います。「その人らしい」生活とは、どのような生活でしょうか?みなさんにとって「あなたらしい」生活とは、どのような生活をイメージしますか?
私は心理社会的要因が健康に及ぼす影響について研究を行っています。「その人らしい」生活に関する要因として「生きがい」に注目した研究を行いましたので紹介します。対象者の方々には「あなたは生きがいをもって生活していますか?」という質問から、「ある」・「どちらとも言えない」・「ない」の中から回答を1つ選んでいただきました。そして、その後の7年間の死亡リスクを調査しました。その結果、生きがいが「ある」と回答した人に比べ、「ない」と回答した人では、死亡リスクが1.5倍高いことが明らかになりました。
心や体に関する支援だけでなく、障がいがあったとしても、その人らしく生きがいをもって生活ができるよう支援すること。リハビリテーションを提供するうえで、この視点がとても重要なことだと考えています。受験勉強の合間に、みなさん自身の「あなたらしい」生活や「生きがい」についても考えてみてください。
私は友人とサッカーを観に行くことが楽しみであり、生きがいにもなっています(最近は、新型コロナウイルス感染症の影響で行けていませんが…)。 -
自己紹介
2021/05/19私が作業療法士になったきっかけは、高校生の時に病気や怪我で大変な思いをしている方々を支援する仕事に就きたい(病院で働きたい)と思ったことです。さまざまな医療職がある中で、対象者の身体面だけでなく、精神面やその人の生活に焦点を当てて支援する作業療法士がとても魅力的に思い、作業療法士になることを決めました。作業療法士の免許取得後は病院で働き、脳血管疾患(脳梗塞、脳出血など)や整形外科疾患(骨折、慢性関節リウマチ、変形性関節症など)で体が不自由な方のリハビリテーションに関わっていました。その後、病気や要介護状態になることを予防することが、より重要ではないかと思い、介護予防に関する研究について学ぶため大学院に進学しました。これまでに病院で働いた経験や研究を通して学んだことを活かし、病院だけでなく地域でも活躍できる作業療法士の育成を目指します。どうぞ宜しくお願いします。