教員からのメッセージ
作業リテラシー、人間作業モデル、地域リハビリテーション、ヘルスプロモーション、介護予防
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卒業研究と椅子
2024/02/14現在、作業療法学科の3年生はそれぞれ研究室に配属され、卒業研究に取り組んでいます。この記事を書く前に、2人の学生を指導していたところですが、指導後、ふと自分が大学生の頃を思い出しました。
20年以上前のことになりますが、私は大学生の頃、動作解析装置を使用して、座る姿勢と作業効率に関する研究に取り組んでいました。研究計画書の作成から動作解析装置の操作方法、解析方法まで、指導教員や先輩から指導を受け、同級生に被験者になってもらいデータを集め、夜遅くまで実習準備室の隅にある解析用PCの前で独り奮闘した日々を思い出します。
研究そのものだけでなく、それに伴うさまざまな活動も、貴重な経験となりました。例えば、指導教員が発表する学術集会に同行し、会場近くの居酒屋で指導教員の仲間の研究者から話を聞く機会や、椅子について学ぶために人間工学の領域で有名な某大学の研究室を訪問した経験などが挙げられます。その某大学の研究室を訪問した際、大学院生たちが座っていた椅子がとても洗練されたものに見え、大学生には手が届かない代物でしたので、就職したら貯金して買うぞと決意し、卒業研究に励みました。卒業から数年かかりましたが、大枚をはたいて購入したのが写真の椅子です。
現在私は、卒業研究とは全く関係がない領域の研究をしていますが、この椅子は、大学生時代、卒業研究に一生懸命取り組んだ思い出とともに、私の大事な宝物です。 -
同窓生
2023/02/08お笑いが好きな方なら「佐久間さ~ん」でおなじみ、TVプロデューサーの佐久間宣行さん。お笑い好きでなくとも、最近はこの本がベストセラーになっているので、ご存知の方も多いと思います。
佐久間さんは福島県いわき市出身で、私の高校の先輩にあたります。面識はなく、5歳離れているので学年も重なっていないのですが、言葉や文章から、一世紀以上の歴史と伝統を誇る母校の同窓の面影を感じます。
同窓と言えば、本学保健科学部は開設されたばかりで、卒業生を輩出できるのはもう少し先になります。当然ながら歴史や伝統、キャンパスのカラーはまだありません。いいかえれば、今在籍している1・2年生、今年入学してくる予定の新入生ひとりひとりの学びや実践の積み重ねが、歴史や伝統、キャンパスのカラーをつくっていくことになるのだと思います。
真新しいキャンパスで、わくわくするような新しいことにチャレンジしてみたい中高生のみなさん、ぜひ本学保健科学部(できれば作業療法学科)を目指し、先輩たちと一緒に新たな歴史をつくっていきませんか? -
Occupational Being(作業的存在)
2022/02/09私の長女は地元のサッカースポーツ少年団に所属しています。主役は子どもたちですが、その子どもたちが練習をするグラウンドの片隅で、誰が音頭を取るわけでもなく、見学しているお父さん同士で鳥かご(3対1のパス回し)が始まります。時には子どもたちを相手に試合をします。最近はそれで飽き足らず、お父さんが主役の練習日ができました。お父さん同士のつながりで、外国籍の方も参加しています。将来的には大会への出場も目指すとのこと。毎日のデスクワークから解放され、緑の芝の上を駆け回り、ボールを思いきり蹴る爽快感は他に得難いものです。また、30~50代の大人が、痛風や腰椎椎間板ヘルニアなど、各々抱える体の不調や痛みをいたわりながら、真剣にピッチを駆け回りボールを蹴る姿を見せることは、子どもたちにサッカーの醍醐味を伝え、地域のコミュニティの一員であることを教育するよい機会であると考えています。
つらつらとサッカーの話をしましたが、本題です。本業である作業療法の視点で分析すると、今の自分(being)は、長女がスポーツ少年団に所属し(belonging)、サッカーという作業(Occupation)をする(doing)ことを通して、私自身もサッカーをして(doing)楽しみ、サッカーを通して普段かかわりが薄い地域のコミュニティに所属するようになり(belonging)、そこで新たな楽しみや役割、習慣を獲得し、将来の自分が出来上がっていきます(becoming)。この循環が、作業的存在(Occupational Being)としての私自身をかたちづくっていきます。
今回は作業(Occupation)を通して、その人らしさや健康を促進する作業療法士の見方を紹介しました。私にとって大事な作業はサッカーをすることですが、皆さんはどのような作業を通して、将来どのような自分になっていきたい(becoming)と考えていますか?その思い描く将来に「作業療法士になること」があれば、ぜひ福島医大の作業療法学科に入学し、作業について一緒に学びましょう! -
生活の過剰?
2021/02/24今年の3月、東日本大震災の発生から10年を迎えますが、当時私は東京の大学で仕事をしておりました。発生後の混乱ぶりは今でも鮮明に覚えています。また震災後、全国に広がった「自粛ムード」は作業療法士として興味深い現象でした。
さて、今から遡ることおよそ100年前、東京は関東大震災に見舞われたわけですが、かの芥川龍之介は、その体験を『大正十二年九月一日の大震に際して』と題する作品に残しています。その中で芥川はこう述べています。”人間を人間たらしめるものは常に生活の過剰である。僕等は人間たる尊厳の為に生活の過剰を作らなければならぬ。更に又巧みにその過剰を大いなる花束に仕上げねばならぬ。生活に過剰をあらしめるとは生活を豊富にすることである。”
生活の過剰とは何か?人間の生活は、寝たり、食べたり、トイレに行ったり、お風呂に入るだけではありません。お気に入りの喫茶店で一人コーヒーを飲みながら本のページをめくったり、弱小だけれどひいきにしているクラブのサッカーの試合をスタジアムで観戦しサポーターとともに歓声を挙げたり、フルマラソンでサブフォーめざし雨の日も風の日も毎日ランニングを続けたり、他人から見れば“生活の過剰”ともいえる作業の連続が、生活や“その人らしさ”を構成しています。
東日本大震災に続き、コロナ禍でも、“生活の過剰”が失われつつありますが、作業療法士は老若男女、障害の有無を問わず、対象となる人・集団の生活を豊富にするために、巧みにその過剰(作業)を大いなる花束に仕上げるのを支援する、そんな重要な役割を担っているのではないか、東日本大震災の発生から10年の節目にふと考えました。
芥川龍之介『大正十二年九月一日の大震に際して』
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趣味は何ですか?
2020/11/04こんな直接的な言い方ではないにしろ、作業療法士が多用するフレーズのひとつです。病気を治すために入院しているのに「何のんきなことを言っているんだ!」と思われる方も多いかもしれません。しかし、その人にとって興味や関心があること=作業を通して、健康の維持・回復・増進を支援するというのが作業療法士の仕事です。病気に焦点を当てるのではなく、人の作業に焦点を当てるユニークな専門職。病気や障害で困っている対象者がどのようなことに興味や関心を持ち、大事にしているのか寄り添って考え、それを実現できるよう支援するきっかけとして、このフレーズを使っています。ちなみに、私の趣味は読書で、写真は作業療法士を志す人にお勧めの一冊です。あなたの趣味は何ですか?
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コロナ禍における“作業(Occupation)”と作業療法(Occupational Therapy)
2020/08/26新型コロナウイルスの影響で、学校に行って勉強することや、友達とおしゃべりすること、部活に打ち込むことなど、今まで当たり前にしていた “作業(Occupation)”ができなくなった人はいませんか?自分にとって大事な“作業”ができなくなることで、元気がなくなったり、目的を見失ってしまった人もいるかもしれません。私たちは、そんな“作業”に困っている人たちのために『#おうち時間見直してみませんか?』※という冊子とリーフレットをまとめ、県内各所で配布しました。作業療法(Occupational Therapy)は、その人らしい“作業”を支援する仕事です。“作業”を通して人々の健康に貢献できる作業療法士を一緒に目指してみませんか?
※https://fukushima-ot.jp/assets/office/200526_ver1-1.pdf